姫華の規則正しい寝息が聞こえる、うす暗い姫華の部屋。

慧はベッドから静かに出て制服を着る。



姫華がセックスしたがるだろう事はよく分かっていた。

本人が気づいているか分からないが、

姫華は心が不安定になると慧と繋がろうとするのだ。



こういう時、姫華は絶対に引かない。





「姫華」


眠る姫華に声をかける。

黙って出て行ったら、せっかくした今のセックスが無駄になる。

だから無理やり起こしてでも姫華に帰る事を伝えなければ。



しかし、姫華は深く眠りについているのか目を開けない。

慧はベッドに腰掛け、眠る姫華の髪の毛の中に指を差し込む。



「ん・・・・・」

「姫華」

「・・・・あ・・・れ、けい・・?」

「起してごめん」

「ううん・・・寝ちゃったね」


そう言ってふにゃっと笑う。


「うん・・俺そろそろ帰んないと」

「うそ・・・何時?」

「9時半」

「そっか・・」

「姫華はそのままベッドに入ってな」

「キスして」


慧は姫華の丸い額と滑らかな頬にキスをした。

顔を離そうとした慧へ伸ばされた姫華の手を取り、

慧はその唇へキスを落とす。






姫華の部屋を出た慧は地下鉄のホームで電車を待つ。


焦点の合わない瞳で向かいのホームを見つめていた慧だったが、

思い出したようにどこかへ電話をかけ始めた。