「あけちゃん、ご飯できたよ。」

私は眠そうなあけちゃんの体を揺さぶった。すると、う〜んと唸りながらあけちゃんは起き上がって眼を開けた。

「おはよ…。今、何時?」

「もう7時。あけちゃん4時間も寝てたんだよ。」

「そっか。…典子、ご飯作ってくれたんだね。ありがと。」

「ううん。あけちゃんのためならへっちゃらだよ♪」

「……さっきから思ってたんだけど…典子、顔真っ赤だよ?どうかした?」

「え…!?そ、そうかなぁ。」

とぼけてみるものの、私自身、顔が火照っているのを感じていた。

それは…さっきの彼のせい?

「……あ、そういえば…河田桂一郎って人が来たよ。あけちゃんに用があったみたいだけど…。」


その名前に、あけちゃんは体をビクンとさせた。

「あいつ…来たの?」

「え?う、うん。また来るって。」

「………そう。」

そう言ったあけちゃんの顔は、とても冷たくて…私は少し恐怖を感じた。

「…あけちゃん、河田桂一郎って人はおんなじ大学の人?」

「違うよ。あいつとは大学は違うけど、小中高と同じだったの。

……典子。」

「え…な、なに?」


「私の前で、二度とあいつの名前を出さないで。」


重く、低い声。私はそこから、あけちゃんのどす黒い『憎悪』を感じとった。

「う、うん。わかった…。」

“何で?”そう聞きたかったけど、あけちゃんが怖くて聞けなかった。

きっと…2人の間で何かあったのだろう。あけちゃんをあんな風にするくらいの何かが…。

昔の私なら、河田桂一郎を“あけちゃんが憎んでいる人”として敵視しただろう。

でも、できなかった。心のどこかで彼を肯定している自分がいたから。……何で、だろう。


はじめに沈黙を破ったのはあけちゃんだった。

「……ご飯、食べよっか。典子の力作でしょ?楽しみだわ♪」

「あ、うん!期待してくれていいよ!!」


こうして、私は彼の存在を知ることになった。でも、この胸の高鳴りが『恋』だということに気付くのには、恋愛経験の浅い私には時間が足りなかったんだ──。