「中野ちゃん !ほらほら、これ!」

会社に出社するなり、城田にビニール袋を渡される。本当に仕事をしているのか、遊びに来ているのかわからない人だ。

「でさ、モノは相談なんだけど。」

城田の家にはインターネットの環境は整っている、しかし無線(WiFi)の設定の方法がわからないという。
その設定をして、ゲームを始める準備をしてくれたら、ドラナイとコントローラの代金はいらないという。

これはありがたい話だ、俺の少ないこずかいが痛まなくて済む。
二つ返事でこれを受け、設定に行く日時を訪ねる

「きまってるじゃん、今からだよ。」

朝から会社の未来に胃が痛くなる。

結局その日に城田の家に設定をしに行くのが俺の仕事だった。
上には城田がトレーニングだなんだと掛け合ったらしい。

定時で会社を出て家に帰ると、蒸し暑い部屋でいつものように機嫌の悪そうな妻がテレビを見ていた。

「ただいま」

一回声をかけた位で反応がないのはわかっている。何度か帰ってきたことを伝えると

「わかってるよ、何回もうるさいなあ。」

と、機嫌の悪そうな妻の機嫌の悪そうな声が返ってくる。

いつからこのような関係になってしまったのか、長期の恋愛からの結婚で無いとはいえ、それなりの恋愛をして、それなりに愛しあい、お互いを尊重しながらここまで生活してきたつもりだった。

「今日会社で城田さんがさ・・」

言い終わる前に気のない返事が返ってくる、これでも、昔は話をするのが楽しいななどと言って俺のそばから離れなかった。
人というのは年齢でかわってしまうのか、それとも俺が大事にしてこなかったからなのか、今となっては解らない。

冷蔵庫の中から片付けられた晩ご飯を探し出し、レンジで温め始める。暖かいモノが好きと言った日から、晩ご飯は冷蔵庫で冷えている。温め直した方があつあつでおいしいでしょうという、妻なりの気遣いらしい。

「もう寝るね。」

まだ7時を回ったばかりだというのに、寝室に向かう妻を見送りながら、こころの中だけでお休みを言う。

電子レンジで温められれば良いのに。