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「じゃ、またね。」
また言えなかった、と思いながら手を振る。
身体だけの関係になって早2年、自分の気持ちを伝える瞬間などいくらでもあった。
それでも言えないのは、ただ勇気がないだけではない。
想いを告げてもうまくいかなかった場合、この関係に終止符を打たれてしまうのは目に見えていた。
会えなくなるのは、想いを伝えられない以上に苦しい。
早く想いを伝えないと苦しいが、会えなくなるのはそれ以上に苦しかった。

京太との出会いは、まだ小春が高校3年生だった5年前。
男子に興味を持てないでいた小春が、無理やり友人に紹介されたのが1つ年上の京太だった。
共通の趣味も多く、意気投合した2人は出会って2週間で付き合った。
それから3年間、小春が大学生になって遠距離になっても続いていたのに、社会人として地元に戻るはずの春に、2人は別れた。

しかし、別れてからも、2人はお互いがお互いを求め合っていた。
小春はもちろん、よりを戻したいがために会い、身体を重ねていた。
いつか京太の方から「戻ろう」と言ってくれることを信じて・・・。
しかし京太はいつまで経っても言ってこない。
いつしか、「戻りたい」と思っているのは小春だけで、京太にとって小春はただの都合のいい女なのではないかと思うようになった。

だから、自分の気持ちを伝えたい。
でも、会えなくなるのは嫌だ。
「はぁー。めんどくさ、自分。」
泣きそうになるのを堪えながら、1人帰り道を歩いて行った・・・。

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