続 音の生まれる場所(上)

長い廊下を静かに歩く。前を行く団員達の背中を見つめながら、隣のにいる人の気配を感じる。

言葉は何も交わさない。でも、気持ちが寄り添ってる。さっきの熱いエールが、自分を支えてくれてる。
不安も迷いもない。あるのは……感謝だけ。

キィ…と音を立ててドアが開く。この扉の先に、音の世界がある。

ゴクッと唾を呑み込んで進む。ざわめく観客達の声がする。水野先生が、私達一人一人に声をかけ、見送ってくれる。
ラストから三番目が私。先生は、こう言って送り出した…。

「自分を信じなさい。君にしか出来ない最高の演奏を聴かせればいい…」

力強く握手して前へと示す。明るい舞台の上に出る。


「真由っ!」

声に振り向く。夏芽が手を振る。父と母。三浦さん家族もいる。ニコッと笑う花音ちゃん。大きなったな…と感じた。
軽く会釈して席に着く。
後から出てきた坂本さんに、ファンの声援が飛ぶ。ここ数年聞けなかった声。やっぱり、皆、待ち望んでた。
最後にコンマスが現れる。拍手に応えて頭を下げる。

チューニングが始まる。微妙な音のズレが修正され、演奏会の準備は整ったーーー。

先生が意を決したように歩いて来る。沢山の拍手に包まれて、深々と頭を下げる。
向けられてた背中が振り返り、笑顔で私達を見つめる。

(いいか…?)

パート毎に目配せする。コンマスと坂本さんが頷き返し、最後に私を見た。

「いいね…?」

小さな囁きが聞こえる。コクン…と頷き返す。タクトが揺れ、椅子から立ち上がった。
指揮者を見る。
ゆっくりと振られる棒の先。大きく息を吸い込んで、少しずつ吐き出す。

『朝の気分』を語りだす。

三年分の思いを込めてーーー