窓の外を眺めながら溜め息が出る。やっぱり私は彼にとって、恋愛対象ではないのかも…。
肩を落として楽器のケースを取り出す。そこへ、彼のトランペットが鳴り始めた。

聞いたことがある曲に振り向く。今朝、部屋で聞いたのと同じ。『星に願いを…』

椅子に座ったまま、頬を赤くして吹いてる。奏でてる感じじゃない…語ってる気がする……。
黙ったまま、じっ…と彼のことを見た。この曲の中に込められてる彼の想い。

(どんなこと…?…私のこと……?)

細い音から漂う優しさ。繊細な響きの中に隠れてる力強さ。いつもと同じようだけど、どこか違う…。

(何だろ…。甘い響き…)

感じたことの無いような声が聞こえる。もしかして…と期待してしまう…。
小さな胸の鼓動が大きくなる。彼から目が離せなくなって、どうしたらいいか戸惑う…。

曲が途切れる。こっちを向く…。

ドキン…ドキン…聞いたことないくらい、心臓の音が大きく鳴り響いてる。

カタン…と椅子から立ち上がる。ビクついて、身動きが取れない。
私の所へ彼が近付いて来たーーー。

鼻の頭を指で擦る。照れる様な仕草に、胸が熱くなる。


「……小沢さん…」

声が震えてる…?自分の胸が震えてるからそう聞こえるだけ…?

「あの…」

ドキドキする。高校生の時、朔に告白された時と同じ。どこか緊張して…張り裂けそうなくらい、鼓動が速まってる。

「は…はい…」

少しでも緩和したくて声を出した。でも、ちっとも緊張がほぐれない。返って、度を増すだけ…。

「あの…実は……」

坂本さんの言葉が聞きたいような、聞きたくないような気がする。呼吸するのも忘れるくらい気持ちが高ぶって、思わず目眩がしそう…。

バンッ!

ドアが開いて、人が入って来た。

「ちぃーす!」
「お疲れー」

乱雑な挨拶と間延びした声……ハルとシンヤだ…。
彼が後ろを振り向く。それに気づき、二人があ…と小さな声を出した。

「し…失礼しやしたっ!」
「…出直して来ますっ!」

慌てて出ようとする。坂本さんが向きを変え、二人の所へ走り寄った。

「…いいから!どこへも行くな!」

ホッとして肩を掴む。私もだけど、彼も相当緊張してみたい…。

「…す、すいません…俺ら邪魔しましたね…」

ニヤつくハルの頭を叩く。

「だからこんな早く行かなくていいって言ったんだよ…」

のんびり屋のシンヤがぼやく。

「だって、今日練習の最後だろ? 真由のことだからゼッタイ早く行くって、ナツが言うもんだからさ…」

笑ってごまかした。

「一緒に練習しようと思って…。僕はもっと、遅く出ようと言ったんだけど…」

シンヤもこっちを向いて笑った。


「…二人とも…ありがとう…」

大事な友人達。その気持ちに感謝する。ほんの少し、遅くても良かった気がするけど、今は贅沢言わないでおく。
照れ笑いを浮かべ、楽器の準備を始める。たった四人でやり出した練習は、三十分後、ほぼ全員でやっていたーーー。