朝の光の中、フルートを握る。三年前、押入れの奥から見つけ出した宝物。
ずっと暗闇の中にあったにもかかわらず、どこも壊れてないのが不思議なくらいだった…。

スケールを吹きながら目についた人形。朔がくれた妖精のオルゴール。見つけて以来、鳴らしたことがなかったけれど、一体何の曲だったっけ…?

フルートを置いて台座の部分を捻る。キリキリといっぱいまで回し、音が始まる。


「…『星に願いを…』そっか。そう言えばそうだった…」

もらった時、何日かたて続けに聞いた。壊れてしまいそうな気がしてきて、鳴らすのをやめた程だった。

「どうりで…思いが込められた訳か…」

朔との思い出が詰まった曲だった。だから気持ちが入り易かった…。

「忘れてた…そんな事もすっかり…」

十年という月日を改めて長く感じた。

「…今日頑張るからね。朔、いつものように、見守っててね…」

鳴り続けるオルゴールに話しかける。穏やかな気持ちが胸の中に広がる。最高にいい『朝の気分』を、また一つ、手に入れたーーー。


午前十一時。最後の練習が始まる。それよりも前に行って、練習しようと思ってた。

し…んとしてるドアの前に立ち、深呼吸する。このドアを開けたら、今日はもう引き返せない。定演が終わるまで、何処へも行けない。

ガチャ…と、ドアノブを捻って中に入る。誰もいないと思っていたのに、誰か…いる…。


(えっ…⁉︎)

並んだ椅子の上で眠ってる。

(まさか…)

近寄って顔を確認する。


「坂本さん…!…どうしたんですか⁉︎」

驚いて体を揺らす。寝起きが悪いのは知ってるけど、具合でも悪いのかと心配した。

「ん…?…何……今……何時……?」

寝惚けてるみたい。目が開かない。

「十時前です。ここに泊まったんですか…?」

お腹の上に掛けられているのは上着だけ。寒くなかったの⁉︎

「泊まってはないけど…早く来すぎて……眠くなった……」

うわ言のように話してる。

「寝ないで!起きて下さい…!」

回り込んで膝をつく。声をかけようとしたら、きゅっ…と抱き寄せられた。

「…一緒に寝よ…」

ドキン!とするようなことを耳元で囁かれた。

「えっ…⁉︎ あ、あの…」

ドキドキして胸が震える。ぱちっと目を開けた彼が、私の顔を見てギョッとした。
ガバッ!と起き上がり、顔を隠す。

「ごめん!今のは完全に寝言!」

力強く否定する。

「そんなの…分かってますよ…」

がっかりしながら側を離れる。あっさり否定されると、なんだか返って切ない…。