「何度も親に心配かけて!」

安心したのか涙ぐんでる。

「ごめんね…お母さん…」

朔が亡くなってから、随分長いこと心配かけた。なのに、また心配させてしまった…。

「今回はこの方達に免じて許してあげるわ。坂本さん、娘が一晩お世話になりました。また何かありましたら、よろしくお願いします」
「ちょっ…!何お願いしてんの…!」

焦る。でも、坂本さんは笑顔で応じた。

「いいですよ。いつでもお役に立ちますから」

ニコニコしてる。

(なんで…?)

ジッと彼の顔を見る。私の視線に気づいて…目…逸らした…。

(えっ…?どうして…?)

少し考える。

(もしかして私…昨夜…何か言った……?)

ドキッとして、まともに顔が見れなくなった。


坂本さんと柳さんは母に見送られて、病室を出て行く。

「じゃあな真由ちゃん!」
「お大事に」

「はい。また後で!」

手を振り、ドアが閉まる。ベッドサイドに戻って来た母が、嬉しそうに微笑んだ。


「いい人達ね……」

その一言から始まった言葉。昨夜の坂本さんのセリフを、母は教えてくれたーーー。




『…今夜、娘さんに付き添わせて下さい』
『でも…ご迷惑でしょ?』

急な申し出に、母は戸惑った。

『いえ…ちっとも。僕はずっと彼女に助けられてきたので、こんな時くらい恩返しがしたいんです』
『恩返し?』
『はい…気持ちを返したいんです。…感謝や…それ以外のものも……』




「…話しながらずっと真剣な顔してて…誠実な人だなって思ったわ…」

うっとりするような母の目がこっちを向く。ドキッとして、慌てて目を伏せた。

「…朔ちゃんが亡くなって、フルートを吹かなくなったのに、二、三年前いきなり吹き始めたのは、あの人がいたからなのね……」

ホッとしながら囁く。子供の頃のように髪を撫でられ、ゆっくりと顔を上げた。

「私を…音の世界に戻してくれたのが……坂本さんなの。あの人が私に…生きることの意味を教えてくれた…だから私も…あの人に返したい。感謝や…それ以外のものを……」

(単なる好きってだけじゃない。生きてることの全てを賭けて、応援し続けたいーーー)

照れながら笑うと、母が「そう…」と優しく答えた。

「お母さん…私、定演頑張るから…聞きに来てね…」

毎年のことだけど、今回は特別。トップでソロをやる事なんて、今後は多分あり得ない…。

「当然でしょ!行くわよ。お父さんも仕事休んで、聞きに行くつもりにしてるんだから!」

一人娘の晴れ舞台を、両親共々喜んでくれてる。この晴れやかな気分のまま、あの曲を吹こう。


…そう。朝日のように…。