誰もいないステージに、私一人だけが立ってる。ホールの電気は全て消え、スポットライトだけがあたってる。

お客さんもいなければ、団員達もいない。

(どうして…?)

訳が分からず、立ちすくむ。辺りをキョロキョロ見回す私の耳に、トランペットの音色が聞こえてくる…。



(この曲は…)

いつだったか、坂本さんに吹いた曲…。


『星に願いを…』

誰かがそれを吹いてる。


(誰…?朔…?)

十年前に亡くなった元カレのペットの音に似てる…。


「朔…?いるの…?」

声を出す。返事はない。でも、音は途切れた。
不思議に思って、ステージの上を歩き出す。スポットライトは、私について動く。


「……小沢さん」

声に振り向く。困ったような顔をして、坂本さんが立ってた。

「坂本さん…」

どうしてそんな困った表情をしてるのか分からない。

「どうしたんですか?どうして誰もいないんですか?」

駆け寄って聞く。言いにくそうな顔で、坂本さんが囁いた。

「定演は終わったよ…。君が吹けなくて…観客が騒ぎ出して……中止になったんだ…」

毎晩のように見ていた悪夢。今もきっと、夢を見てるんだと思った…。

「ウソ…私まだ吹いてませんよ…」

頭も身体もフワフワしてるし、さっきまでの体調と変わらない…。

「本当だよ…僕が嘘をつくと思う?君に言えなくて、皆、先に帰ったんだ。リュウも。ハルシンも…他の人も……」
「ウソ…!だって、ナツにも会わなかったし…!」
(絶対に信じない…そんなのウソだ!)

坂本さんの言葉に耳を塞ぐ。でも、その手を解かれた…。

「君の親友は…見てられないと言って、泣きながら帰ったよ…。後のことは僕に頼む…って…」

手首を掴んでる感触が生々しい。

(…まさか、ホントなの…?)

後ろに倒れ込むように座る。その間もずっと、手首を握られてた…。


「…ウソ…ヤダ……こんなの…信じないっ!」

腕を振り回す。だけど、坂本さんは手首を放してくれない。

「ヤダ…!…放して!……放してっ‼︎ 」





「小沢さんっ!!」


ハッ!!