月曜日、いつものように編集部のドアを開けた。窓から差し込む陽の光が眩しくて、一瞬、目を細める。ドアを閉めずに立ち尽くしている私に向かって、三浦さんが声をかけてきた。

「おはよう、小沢さん」

目の前に手をかざし、声の主を確認する。

「おはようございます」

ドアを閉めて中に入る。いつものように自分の席にポーチを置き、給湯室へ向かおうとする私を三浦さんが呼び止めた。

「あっ、小沢さん、聞いたよ!」

唐突な言葉に振り返り、三浦さんの方を見た。

「…何をですか?」

ニコニコと笑ってる。何かいい事でもあったんだろうか。

「坂本さん、帰って来たんだってね。昨日、本人から電話があったよ」

休日出勤している所へ電話が入ったそうだ。

「小沢さんに呆れられたって、笑って話してたよ」
「えっ⁉︎ いえ、あの、それは…」

しどろもどろな私を見て笑う。いきなり坂本さんのことを話し始めたのは、それを言う為じゃないらしい。

「彼のことを記事にしようと思ってアポを取ったんだけど、君も一緒に…と言われてね」
「私も!? 」
「うん。お礼が言いたいらしいんだよ。今日の午後三時に会うようになってるんだけど…小沢さん行ける?」
「午後三時…」

何か予定があった気がして、スケジュールボードを見た。

「……すみません…私、午後から会計報告会に参加することになってます…」

月一回しかない定例会議。帳簿がきちんとつけられているかどうか、指導監査を受けることになっている。

「折角のお誘いなんですけど…行けません…」

ションボリする。坂本さんの話を、誰より一番聞きたがってるのは私なのに…。

「そうか…残念だな…坂本さん、君に会いたがってたのにな…」

三浦さんの言葉を疑う。驚いて彼を見ると、ニッ…と微笑まれた。

「しかし、報告会があるんじゃ仕方ないか…」

つまらなそうな顔をする。帳簿をつけてるのは私。金銭の流れを知ってるのは、他には編集長くらいのもの。

(今日に限って報告会なんて…ついてない…)

ガクッと肩を落とす。諦めて給湯室に向かおうとしてた所へ、出入り口のドアが開いた。