翌朝、駅に向かいながら夏芽に電話した。カズ君と別れたと話すと、彼女は自分のせいだと言って謝った。

「私が余計なこと言ったから…」

反省する彼女に、そうじゃないと首を振る。

「違うよ…私がブラス一筋だからだよ…」

青春時代の全てを賭けていたブラス。朔が亡くなって離れている間も、彼のペット音が何かにつけ、私を支え続けてくれた…。

「私もう寂しくなんかないよ。だって、坂本さんのペットの音が聞こえてくるもん…」

力強くて優しい音色。いろんな言葉で語りかけてくる。

「それがある限り大丈夫。私、頑張れる!」

やっと戻ってきた本来の自分。押し殺す感情も何もない。迷わず、彼の帰りを信じていける。

「私も一緒に頑張る!そんで真由と一緒に、坂本さんの帰りを待つ!帰って来たら『遅い!』って、怒ってやるっ!」
「…そうだね。そうしよ!」

笑い合って電話を切った。空を仰いでみると、街路樹の枝に幾つもの木の芽が見えた。新しい季節の訪れは、すぐそこまで近づいてる。春風がもうすぐ、吹き始めようとしていたーーー。