「なんだかんだ言っても、真由子はちゃんと演奏出来てるよ」

練習終了後、シンヤは楽器の手入れをしながら褒めてくれた。

「お前、もう少し自分の音に自信持てって!この明るい曲調が、真由のフルートにピッタリだと思うから、団長も推薦してくれたんだぞ!」

分かってんのか⁉︎ …って、ハルが念押し。

「なんたって、清々しい曲だしね」

楽譜を眺めながら、夏芽が鼻で唄う。

「…そうだけど…」

皆の気持ちは有難い。柳さんが私のことを考えて、この曲を選んでくれたのも知っている。でも、どこか自分を信じきれずにいる。
何かが、足らない気がしてる…。


「…もっさんがいたらさぁ〜」

ドキッとするシンヤの言葉に、楽器を拭く手が止まった。

「この曲、真由子にお似合いだって、きっと言うだろうなぁ…」
「言う言う!あの人、絶対真由のフルートのファンだったから!」

あはは…と二人が笑い合う。その言葉に、胸が苦しくなった…。

「そ…そんなことないと思うよ…」

聞かせたのは一度だけ。それも、たどたどしい音だった…。

「本当だって!送別会の二次会で言ってたよ。真由子のフルートは聞いてて気持ちが明るくなるからいいって。あの音をそのまま、大事にしていって欲しいって…」
「そんな…」

返事がしづらくなって黙り込むと、夏芽が口を挟んだ。

「坂本さんって、真由が好きだったの?」

ギクッとするような質問を二人に投げかける。顔を見合わせたハルとシンヤが、プッと吹き出した。

「それはもっさんに直接聞かねーと分かんねーよ!」
「あの人ポーカーフェイスだったし、自分の気持ちも音でしか表したことのない人だし!」

楽団の中でしか付き合いのなかった二人にとって、坂本さんは目標とするべき素晴らしい演奏家。一人の人間として付き合ったことのないうちから、余計な事は詮索できないと言った。

「まぁそれもそうよね…」

釈然としない様子。でも、私はひどくホッとした…。


「じゃあな!」
「またやろう!」

カラオケボックスの前で、二人と別れる。手を振る私のことを、夏芽はジッと睨んでいた。