12月15日は、あの人がドイツへ旅立った日。この二年間は、その日が来るのが待ち遠しいような、怖いような気持ちがしていた。
でも、今年はなんだか空しい。彼が今、どこで何をしてるかがサッパリ分からないことが、空しくて仕方ない。

「坂本さん…今頃、何をしていますか?…」

楽団員全員で撮った、彼との最後の写真。形の整った綺麗な眉毛に、筋の通った鼻、少しだけ笑ってる顔。王子様みたいだな…と思った、あの初対面の日を思い出す。

子供の頃、亡くなった元カレに抱いた気持ちと同じような思いを持った。きゅっと胸が苦しくなって、落ち着かなくて、でも何故か側にいたくて…。
忘れたくないような気がして、手放したくないような気がして、ずっと…写真を飾っていた。カズ君に対して申し訳ない…と思いながら。


「…行こう。時間だし…」

土曜日はブラスの日。今日は昼食を一緒に食べながら話そうと仲間達から誘われていた。


ハル、ナツ、シンヤ、私。四人が顔を合わせて食事するのは久しぶり。その待ち合わせ場所に急いで行った。

「真由ー!元気だったー⁉︎ 」

集合場所に着くなり、大声で夏芽が叫ぶ。

「元気元気!ナツ、久しぶりー!」

底抜けに明るい夏芽に合わせる。中学時代からの親友。彼女は私とカズ君が付き合ってるのを知っている。

「その後、年下のカレシとどう?仲良くやってる?」
「うん、仲良いよ!決まってるじゃん!」

関係はまだキス止まりだけど…って、それは内緒。

「イイなぁ…私もカレシ欲しい…」

去年、バンドのギタリストと別れた夏芽は、以来、男はコリゴリだと言っていた。

「ナツならすぐできるよ。人見知りしないし、誰とでもすぐ打ち解けられるし…」

残る二人が来るのを待ちながら女子会トーク。夏芽は困ったように、うーん…と唸った。

「そこなんだよね。誰とでもすぐ仲良しになっちゃうから、お友達以上になれないの。現にこの間も、イイなと思ってた人からされた相談、他の子とどうやったらカップルになれるか…だったし…」

ぶーたれて話す夏芽の顔は可愛い。くるくる巻いたショートヘアは、ロックバンドを始めた頃からのトレードマークだし、目はくりっとしてキレイな二重で、唇も小っちゃくて、すごく女の子らしい。なのに、彼女にとっては、それが一番のコンプレックスであり、悩みらしいんだ。

「私が男だったら、ナツのカレシに立候補するけどな…」

カラッとした性格の夏芽といたら、いいこと沢山ありそうな気がする…って付け加え。


「私、神様じゃないから、いい事なんてそうそう無いって!」

笑いながら話す夏芽との会話。子供の頃からちっとも変わらない二人の関係。言いたいこと言い合って、喧嘩もほどほどにしてきた。

「ところでさ…」

笑いが途切れて夏芽の声が小さくなる。目の前を行き来する人達を見つめながら、ボソッと発した言葉。それがちくっ…と胸を刺した。

「坂本さん…どうしてるだろうね…」