どれぐらい走っただろう。
息が苦しい。脚とお腹に刺さった矢が動くたびに身体中に痛みが走った。

やみくもに山の中を走ってきたせいか、わたしはいつの間にか山の奥の滝のそばにたどり着いた。
大きな滝からは綺麗な水が流れ落ちて川になっていく。
村の人から話は聞いていたけど、山道からかなり離れた場所にあるから実際に来たことはなかった。

のどが渇いた。

わたしは息を整えながら水辺に近づいた。
すぐ近くに水の流れが遅いところがある...。
そして、顔を洗おうと水を覗き込んだ時、目に入ってきたのは水面に映った大きな雪山猫の頭だった。

「...!」

驚いて後ろを振り向いたけど、誰もいない。

もう一度水を覗き込む。
さっきと同じように雪山猫の頭が水面に映った。

もしかして...。

恐る恐る手を水辺に伸ばす。
でも、手だと思って伸ばしたのは白い獣の脚だった。それと同時に水面には水に手を近づける雪山猫の姿が映る。

獣の足が水面に触れて水が波立った。

手の先から感じる...。川の水がとても冷たい。



わたし...これって...。


昨日の夜のカナタの言葉が浮かび上がる。『この人間をそのまま生かすわけにはいかんな。』

何かひどいことをされるのはわかってた。
同じ種族のアオをあれほど傷つけて平気なんだから、どうとも思ってない人間のわたしに残酷なことをするのは、それは想像できること。

でも...雪山猫にされてしまうなんて...。