恐る恐る顔を上げたわたしの目に入ったのは、月を背後にして空に浮かぶ、強大な緋色の龍だった。

人一人を簡単に飲込めそうなほど大きな龍は真っ赤な炎をまとい、黒色のたてがみを風になびかせ、わたしを睨みつける瞳は金色に光っていた。鋭い鉤爪は瞳の色と同じ金色で、先のほうが血の色で滲んでいた。

気高く、冷酷...。圧倒的な存在とその恐ろしさにわたしは目をそらすことができなかった。

「これは面白い...!」
唖然とするわたしを睨みつけたまま、緋色の龍は地面に降り立った。

「龍族から捨てられたお前が見つけたのは人間の仲間か。弱く、醜く、薄汚い人間にしか拠り所を見出せないとは...貴様らしいな!」
緋色の龍はまた大声で笑った。
龍が笑っている間にアオはゆっくりと起き上がり、草の上に膝をついて龍に頭を下げた。
「カナタ様、ご覧の通り、わたしは何も企んでいるわけではありません。わたしの周りには人間しかいません。」
アオが言うと、そのカナタという名の緋い龍は納得したように頷いた。
「確かに、下等な人間がどれだけいようと、貴様には何もできない。人間界で妖魔を集めて何かを企んでおると...我の心配損だ。だが、貴様からは目を離さぬぞ。居場所はわかった。今宵はここまでにしておいてやろう。」
「お言葉に感謝いたします。」
「ふん、せいぜい今の時を楽しめ。」


緋色の龍はゆっくりと地面から浮き上がると、ものすごい速さで天に昇っていった。あっと言う間に見えなくなる龍を見つめるわたしをよそに、アオはずっと地に膝をついて頭を下げたままだった。