勉強にしても、スポーツにしても、絵を描いたり、習字をしたり、得意なテレビゲームにしたって何一つユキには敵わなかった。

常に一歩前にいるユキを眺める事しか出来ないおれは、劣等感といえば大袈裟だけど、自分の全てがウィークポイントに思えてならなかった。

だからおれは必死で強がった。悔しくなんてない。別にどうだっていいんだ。そうやって自分のキャラクターをつくる事がおれにとって精一杯の強がりだった。

そうしなければ、とてもユキと一緒にいることなんてできなかったから。

「ユキはあの頃と何も変わらないな」

「そうかな?」

おれは小さく笑って頷いた。昔も、そしてこれからも、マイペースで、何にたいしても積極的で、スイスイスラスラ凡人を尻目にクールな顔で何でもこなしてしまうユキでなくてはならないのだ。いつまでもその氷のような表情を崩してはならない。まして、おれの前であんな顔を絶対に見せてはいけないのだ。

おれは横目でユキの顔をチラッと覗いた。相変わらず整いすぎた感情の読めない涼しげな顔。

だが、その冷たい瞳の中では、昼間見た時と同じく、何かがゆらゆらと不安定に揺れていた。