なにかいわないと。ほんの数秒の沈黙がやたら長く感じて、おれに重くのし掛かる。キョロキョロ泳いでいたユキの目はいつの間にか真っ直ぐおれの方へ見据えられていた。

落ち着け。自分にそういいきかせながらなんとか言葉を絞りだそうとするが、ユキの熱い視線に氷漬けにされて指先ひとつ動かすことが出来ない。

「あの・・、あのさ・・・」

おれが何度か口をパクパクさせながらようやく喉から声を出すと、ユキの目の中の熱は和らぎ、そしてまたいつもの冷たい王女の瞳に戻っていた。

さっと笑みを浮かべてユキはいう。

「ごめん。無理ならいいんだ。やっぱり一緒に花火観る彼女くらいいるよね」

彼女なんていなかった。久しぶりにユキと屋台を歩くのも悪くないだろう。でも、それはあくまで幼馴染みとしてだった。

おれはユキの背筋のぴんと伸びた背中を見送りながら、赤くなったユキの顔を思い出して困惑していた。