ボールは当たり前のようにリングに吸い込まれて床に落ちた。ミウはおれを見ていう。

「笑わなかった」

「えっ?」

「笑わなかったの。一度も。勝利の瞬間、普通ならメンバー全員とハイタッチしてもいいくらいなのに、13番は冷たい表情でそそくさとコートから出て行った。不思議な光景だったな。体育館にいる全てのプレーヤーのなかで一番上手い選手が、体育館の中で誰よりも寂しそうな背中をしてた」


おれはその試合をよく覚えていた。公式戦を除いて、おれがブザービーターを決めたのは、中二の秋の練習試合で一度だけ(ちなみに公式戦では二回)。自分ではそれなりに楽しい試合だった。笑わなかった?おれは確かに笑っていた。ハイタッチをする相手も、笑顔を向ける相手もいない。だからおれは心の中で静かに笑っていたんだ。

「本人はそうでもなかったんだけどな」

「ホントにそうかな?」

ミウの顔は、おれなんかよりずっと寂しそうに見えた。