「次のQもさっきのメンバーでいくぞ。ベンチのメンバーもいつでも出られるようにしっかりアップをしておけ。それから桐山・・・」
「はい?」
準々決勝進出を懸け、鼻息の荒くなった監督は、おれの前に仁王立ちになっていった。
「次はしっかりと自分の仕事をしろよ。いつもみたいに遊んでるとすぐに引っ込めるからな」
いわれなくても分かっている。この試合に遊んでる余裕なんてどこにもない。まずは14点。この点差をさっさと埋めなければならないのだ。おれはいつものように気だるく返事をしながら、もう一度バッシュの紐をキツく締め直した。
(5対1がどうした。たとえおれ一人でも絶対に勝ってやる)。
おれは本当に勝つ気でいた。勝ちたいと本気で思っていた。この時、自分がとんでもない間違いをしているとも知らずに。
自身の実力と競争心に掻き立てられ、ベンチでひとり不適な笑みを浮かべているおれは、あまりにも哀れで、あまりにも滑稽だった。

