ホンモノ

「私のこと、嫌い?」



「…………」



「…………」



沈黙が流れる。私は無意識に伊原くんの顔を見つめ、



一方の彼は少しだけ私の方に顔は向いているが、視線は下に落としている。



ふと彼が口を開いた。



「……知らない」



「…………えっ?!」



いやいやいやいや!知らないって、自分のことでしょ?!



私の頭の中にあった言葉に答えるように彼は再度口を開いた。



「ほとんど関わったことないから感情もない」



私はぽかーんと立ちつくしていた。



正当すぎる答えと、ストレートな言い方に私は言葉を失った。



実際、関わったことがあるといっても、まともに話したことなんて



一度もないし、そもそも彼の近くに寄る機会すらなかったから、



互いに存在を知るのが精一杯だったのかもしれない。



「……」



「なにボーッとしてんの」



「あっ、いや……正当だなと思って……」



この時、伊原くんが目を大きくしたことに照れから少し



うつむいていた私は気付かなかった。



「……あんた…」



「いやー、ごめんね!いそいそしてたら鍵もったまんま会議に出ちゃって」



急に声がして私はビクッとなる。誰?と思い声のする方を見ると、



そこには小柳先生。



小柳先生は二十代の若い女性の先生で、誰にでもすごくフレンドリー。



だから教師と生徒間の関係は、教師と生徒っていうより友達みたいな感じ。



「あ、もー、先生しっかりしてくださいよー」



笑いながら先生の方へ歩いていく。



「いやー、本当ごめんね。………はい、忘れ物かなんか?」



「はい。あ、鍵おいておいて大丈夫ですよ。私戻しときますから。」



「えー、本当?ありがとね。……じゃね。また明日。」



「さよならー」



私は鍵を預かると、教室の鍵を開け中に入った。



自分の席まで行って机のなかを覗く。



「やっぱりあった……」



これから気をつけよと思いながらふと気づく、



あれ……?



伊原くん、もういない。



まあ、彼の机は教室入ってすぐだから当たり前か。



その時私は思い出した。



そういえば伊原くん、なにか言いかけてたような……?



でもなんて言ってたっけ?



ま、大したことじゃないのかな……



でも、一応こんど会うとき聞いてみようかな。



そうして私は鍵を戻した後、オレンジ色に染まる空の下帰路についた。