ホンモノ

教室の前で教科書でも読んで先生待ってようかな。



そう思いながら階段を上がり右に曲がる。そして再度私は目を見開いた。



……伊原 勇之助………



まだいたんだ。



今度は彼は両手をポケットにつっこんでただボーッとしていた。



また見つめてしまって冷たくされるのも嫌だから



そそくさに少し距離を開けたところに私は移動した。



ただ、教科書を開く気にはならなかった。



「なんでいるの?」



その疑問が頭のなかでぐるぐると駆け回った。



誰かを待っているのか?



誰を?



彼女?



まあ、でもそういうことの経験あるっていうし、いるのは当然か。



でもそれじゃあ彼女は今どこでなにやってんだ?



てかどんな子なんだろ。



大人しめ?元気系?ギャル系?



自問自答を繰り返し、考えが変な方向に移動しだしたため、



丁度やめようとしたとき、ふと彼が口を開いた。



「……鍵、無かったでしょ」



「……へ?……」



突然話しかけられたことに対応しきれなかった私は拍子抜けた声を



出してしまった。



「あ………え……知ってたの?」



「俺も携帯とりに帰ってきた」



この瞬間私の頭のなかで繰り広げられていた考えがバラバラに砕け散る。



別に誰も待ってなかった……



つかもっと早く言ってよ……



「そうなんだ」



私の「そうなんだ」で会話は終わってしまったため、二人の間に長い沈黙が



流れる。



どこからか野球部の練習の声が聞こえる。



話題、振った方がいいのかな……



「あの……ゆ、のっち……?」



「……え」



「あ!ごめん!馴れ馴れしい?!」



「……いや、別に」



「…やっぱ……伊原くん?」



「……別に好きに呼べば」



「え、じゃあ……伊原くん……」



「……なに」



「あ……いや、その…………」



「……」



「なんで私にはそんな冷たいの?」



「……は?」



うっ……なんか伊原くんちょっと怖いな……ストレートに私もぶつけすぎた……?



「……ごめん………急に」



「……いや………冷たいっていうか……関わったこと無いし」



「えっ…あるよ!入学式の日、ちょっとの間伊原くんを見てたら『なんか用』



 って………」



「……別に普通だろ」



普通って……



まあ確かに見知らぬ人に見つめられればその反応は普通かもしれないけど、



実際言われてひやっとしたし……



「……伊原くんさ、私のこと好き?」



「は?」



「……あっ!そういう好きじゃなくて……あー……じゃあ、私のこと嫌い?」



今だから思うけどあの時私嫌いって言われてたらどうなってたんだろう。



全くすごいことをきいたもんだ。