私はごく普通のどこにでもいる主婦。

34歳。橘優月。結婚して10年。
子供はいない。

夫隆之とはもう4年前からまともな会話もなければ夜の夫婦生活なんてもう暫くない。



夫には…
愛人がいるからだ。

こんな仮面夫婦を続けているのは世間体を
大手企業に勤めるエリートの夫が気にするからだ。

私も夫も互いに愛情はない。

私はいつ別れても構わないと思っている。

けれど夫の方は別れるという選択肢はないみたい。



私は…

新しく自分の世界を…

今までの自分を捨てて

見つけて見たかった。


というよりも刺激が欲しかったのかもしれない。


なのに…


まさかあの夜の彼との出逢いで

こんなに誰かを…

胸を締めつけられるぐらい苦しくて

どうしようもない程誰かを
好きになるなんて



この時は想像する事さえ出来なかったんだ。


猛暑日も過ぎて蒸し暑さが少し残るぐらいの季節だった。

9月。

夫隆之が2週間の県外の出張に出かけた日。
いつものようにリビングで掃除機をかけていた時。



一本の電話が私の携帯に掛かってきた。

「もしも~し」


高校時代からの親友、知香からだった。


知香は私と正反対でスラッとしたスタイルでとても綺麗な顔立ちで高校の時から良くモテていた。


「優月、今日から旦那さん出張だったでしょ?」


「うん。そうだけど…どうして?」


「優月、前から何か刺激が欲しいって言ってたじゃない?」「まぁ…ね。それで何か刺激的な事でもあるの?」


「今晩、ちょっと私につき合ってよ♪」

楽しそうに弾む知香の声につい釣られて

「わかった。じゃあ何時頃待ち合わせにする?」


「19時半頃、S駅でどう?ついでに軽くご飯もしよ!」


知香との電話を終えて私はふと鏡の前に立つ。


「はぁ。何か疲れてるなぁ。顔が…」


(というか、知香はどこに連れて行くつもりなの?)