「ちぃちゃん!」

「!! 奈緒先輩!」



講堂へ向かう途中、奈緒先輩に呼び止められた。


会う度に高鳴っていた心も、今では静かな幸福感に満ちている。





「ちぃちゃん、あのね──」

「なんですか?」


「私、ちぃちゃんに会えて、本当に良かったよ。ちぃちゃんがあの薔薇園に迷ってくれて良かった。
ちぃちゃんの存在に、私は癒されていた。だから──」

「いいんですよ、先輩。私だって、奈緒先輩に救われてたのは同じなんです」


笑顔でそう返すと、奈緒先輩も照れくさそうに頭を掻いた。



失恋したての頃は、こんな風景想像も出来なかったと思う。



今はただ、穏やかに。







「先輩、そろそろ行かなくてもいいんですか?」

「あっ そうだね。…それじゃあ──」




ありがとう。



それだけ言って、奈緒先輩は颯爽と立ち去ってゆく。






「奈緒------!!!」



奈緒先輩の背中にありったけの声を浴びせると、びっくりしたように奈緒先輩が振り返る。




「卒業、おめでとうございます---!!!」







ありがとう、奈緒先輩。





心から、幸せを。








──第一部 完──