「私、実は結構昔からあなたのこと知ってたのよ」


エリカがおもむろにそう切り出したのは、新年まであと数時間といった、吹雪の夜のことだった。



あと1週間ほどで三学期……私は溜まりに溜まった課題に頭を悩ませていた。


「何、とつぜん」


顔を上げもせず、私は教科書とにらめっこを続ける。
負けるものか…。



エリカは私の素っ気ない態度が気に食わなかったのか、読んでいた本を閉じ私の肩にもたれる。



「私、あなたのファンだったのよ。
初等部から、ずーっとね」



ピタリ と私の指が止まる。

エリカはそのふわふわした巻き毛をいじりながら、愉快そうに口の端を歪めた。


「そうなの。それは驚きね」

さして驚いてもいない様子で再び課題に取りかかる。

こういう話題を持ち出されると、次のセリフは決まってこうだ。



「どうして辞めてしまったの?──演劇」



これが一番面倒な話題だった。