その日も私は、あの薔薇園でぼ-っとしていた。



ここは落ち着く。
ざわつく外野も、心を乱れさせる静架も、来ないから。


静架は、此処が私が唯一くつろげる場所だと知っているから、めったに此処には来ない。


そんなに気に入ったならあげる、なんてイタズラっぽく笑っていた。






「ふぅ-っ……」


大きく深呼吸。

さて、一眠りするかな…。






「あ…………」



突然、か細い声がした。

聞いたことの無い声だ。

反射的に「誰…?」と声をかけていた。



声の主は戸惑っている様子だったが、観念したかの様に姿を表した。



華奢な少女の影が、茂みの奥から進み出る。


緊張したように顔を強張らせ、目をぐるぐると回していた。

愛らしい女の子だ。



私がしばしその子を観察していると、沈黙に耐えかねたように彼女が口を開いた。



「あ──すいません、私、迷子になってしまって、その……」







これが彼女、夏目 千雪との出会いだった。