5月の憂鬱



------------------------------


〖 朝日 春歌 side 〗


クラス委員になった私は、とにかく色々な仕事ををやらされた…
1番に嫌だった仕事…数学のノート回収…。だって、数学の教科担任は悠希なんだもん…
もう、5月中旬にもなって学校生活には慣れてきたけど悠希との今の関係にはなかなか慣れない…
だって、”先生”と”生徒”の関係なんだもん……


ある日のノート回収の日。
いつもよりも提出率がものすごく悪かった…

「聖先生、ノート回収してきました。」
「は? 少なくねーか?」
「え…えっと…。それは…」
「紙に書いて。提出してない奴らの名前な。」
 はぁ…?! 何でよっ! 何で私がそんなことを…
「いや。」
「ん~…そうだな…。紙に書いてきてくれたら…」
 うぅ…拗ねてるのバレたかなぁ…何かニヤニヤしてる、悠希って怖い。
「……?」
「今日、俺の仕事上がり早いから…俺ん家に来い。」
 …っ// え?! み、耳元で…! 嫌だ…絶対に顔赤い…//
 とにかく、両手で覆うように手で顔を隠した。
 でも、悠希の表情が気になって…指の隙間からそっと覗いてみる…
「……。」
「…朝日さん…? もしかして、具合でも悪いのか?」
 あれ…? 悠希が私のこと、心配してるの…?
 そう思った途端…不安になって、そっと両手を下ろし…ぼう然とした。
「…ううん…平気です。」
 そう言って、そっと微笑みかけた。
「本当か? もし、辛くなったら保健室に行くんだぞ?」
「わかってます。それじゃ…未提出者の名前、紙に書いたら持っていきますね。」
「おう。無理だけはするなよ。」
「はい…失礼しました。」
 よし、クラス委員の仕事はしっかりこなさなくっちゃ…!
 あ…そういえば…悠希に家に来いって言われたけど、いつ行けばいいんだろう…?
 そうだっ、紙を持っていくときにでも聞いてみようかな。

…数時間後…。

「失礼します。聖先生、持ってきました。」
「本当にやってきた。」
「はぁっ?!」
 やば…っ ここ職員室だった…!!
「ば、はかっ!」
「……っ…!」
 痛い…。何で…叩くのよ…悠希の意地悪。
「ご…ごめんな…? 痛かったよな…?」
「いえ…私が悪いんです…。職員室で大きな声…出したから…」
 じ、自業自得よね…でも、泣きそうだよ…もう。
「…春歌…」
「え…? い、今…何て…?」
 …悠希…? …春歌って言ったよね…?
「あ、そうだ…6時、な…?」
「…はい…」
 6時に行けばいいのね?
「紙書いてくれて、サンキュ!」
 な…こんな…笑顔向けないでよ…阿呆…!//


------------------------------


〖 聖 悠希 side 〗


もう5月中旬か…。月日が過ぎるのって案外早いもんだよな。
教師の仕事には慣れてきたんだが…春歌との関係にはなかなか慣れない…
”先生”と”生徒”なんだぞ…。まったく、運の悪い男だな…俺は…。

ある日のノート回収の日。

「聖先生、ノート回収してきました。」
「は? 少なくねーか?」
「え…えっと…。それは…」
「紙に書いて。提出してない奴らの名前な。」
 よし。面倒だから、春歌にやらせよう。
「いや。」
「ん~…そうだな…。紙に書いてきてくれたら…」
 うわ。すっげぇーふくれっ面だ…(笑) あ~、拗ねてんのな。はいはい。
 ったく、とことん分かりやすい女だな…春歌…
「……?」
「今日、俺の仕事上がり早いから…俺ん家に来い。」
 そうだな、ご褒美は学校であげれねぇーしな…。とりあえず家に呼ぶか。
 周りにバレたらまずいし…耳元で言うしかないな。
 あれ…。つーか、何で顔隠したんだ?! もしかして、具合でも悪いのか…?
「……。」
「…朝日さん…? もしかして、具合でも悪いのか?」
 ちょっと不安になった…。いきなり顔を隠すんだから…。
「…ううん…平気です。」
 本当に大丈夫なんだろうか…心配だ…。
「本当か? もし、辛くなったら保健室に行くんだぞ?」
「わかってます。それじゃ…未提出者の名前、紙に書いたら持っていきますね。」
「おう。無理だけはするなよ。」
「はい…失礼しました。」
 あ。時間言うの忘れてたな…。紙持ってくるときにでも言おう。


数時間後…。

「失礼します。聖先生、持ってきました。」
「本当にやってきた。」
「はぁっ?!」
 この、馬鹿春歌っ!! 声でけぇよ!
「ば、はかっ!」
「……っ…!」
 やば。つい…勢いで叩いちまった…。
「ご…ごめんな…? 痛かったよな…?」
「いえ…私が悪いんです…。職員室で大きな声…出したから…」
 泣きそうになってんじゃんか…本当にごめんな…。
「…春歌…」
「え…? い、今…何て…?」
 な、名前で呼んじゃった…。まずいな…誤魔化そう。
「あ、そうだ…6時、な…?」
「…はい…」
 よし、これで何とかなったかな…?
「紙書いてくれて、サンキュ!」
 ニコッと微笑めば完璧だよな。


------------------------------