風に歌声が乗り、そよそよと僕の耳に届く。

ああ、なんて悲しい声なんだ。

聞いた僕が泣いてしまいそうだった。
それは僕が諦め捨てた人生を、只々漠然と生きているからだ。
そしてそんな状況にさせた自分の心境の裏側で、もう一人の自分の中の心境が、泣きそうに涙を堪えているからだ。

ーーーふっと風が止んだ。

それが合図となり、歌い終えた鍔の広い真っ赤な女優帽を被った女性は、何かに惹きつけられたかのように、ゆっくりと川にかかる橋の柵に足をかけた。

ふわり...

女性はゆっくりと、スローモーションに、橋の下へと姿を消した。