カッカッカッ…




チョークの進む音が静かな教室に響いている。3年D組では今、4時限目の数学の授業中だ。黒板に書く手を止めた教師が振り返り、喋りだす。




「ということで、ここの問題はこういう風に式が成り立つが、では、ここの答えが分かる奴?」




教師の言葉に一斉に目をそらす生徒たち。指されるなオーラが教室内に充満している。この数学教師は生徒からの評判が悪い。答えを間違えると嫌味を言ってくる事で有名で、ある生徒は「こんな問題も分からないのに、○○大学を受験するって勇気あるな。」などと言われたようだ。





「んー?ちょっと難しいかな、この問題は?じゃあ…」





教師が生徒たちを見渡す。緊張の糸がピンッと張る生徒たち。





「三池!分かるか?」




教室の一番後ろの窓際に座っている家康が指名された。学ランのボタンはきちんと首元まで止めている。ゆっくりと立ち上がる家康。




「…分からないです。」




教室が少しざわつく。みんな「え?」という雰囲気だ。




「ほ~う。珍しいな、お前が分からないなんて。この学校始まって以来の秀才がどうした?『秀才』って周りから言われ過ぎて、最近勉強を怠ってるんじゃないか?ん~?」




お得意の嫌味が発揮された。三池が分からなかった事に、どこか嬉しそうに話す教師。もてはやされる人を見ると毛嫌いするような性格の悪い人間だ。