4時限目の終わりを告げるチャイムと同時に、各教室から生徒達がゾロゾロと出てくる。




食堂に走って向かう男子生徒や、廊下で他のクラスの友達と昨日の音楽番組に出演していたアイドルの話で盛り上がる女子生徒達など、それぞれの昼休みを過ごしている。午前中の授業が終わった解放感からか、皆笑顔だ。




そんな中、鬼の形相で廊下をドシドシと歩く女の子が。3年A組神田姫美子だ。




ガラガラガラガラ!!!!




3年B組の教室のドアが勢いよく開けられる。




「ノブー!!!!ノブは来たー!!??」




B組の生徒達が「またか」という表情で笑っている。




「来てなーい!!」




今日発売されたファッション誌を片手にB組の立花陽子が、茶色いロングヘアーをかきあげながら楽しそうに答える。姫美子とは高校一年の時のクラスメートで、それ以来仲が良い。




「え?マジ!?もーう、アイツ本当にこのままだったら留年しちゃうよ?この前も先生に怒られたばっかなのに!」




「姫美子も毎日毎日、桐生くんの子守り大変だねー。」




雑誌を机に置いた陽子は、姫美子の元へ向かい肩をポンッと叩く。しかし、言葉とは裏腹に表情は少し笑みを浮かべている。




「陽子ー!からかわないで!」




「ごめん、ごめん。だって、こう毎日うちのクラスに来て『ノブー!ノブは来たー!?』って言うからさ、今じゃすっかり恒例行事みたいになってるんだもん。」




「私だって、こんな事したくないもん!たまたま小さい頃からの幼なじみってだけで、ノブのお母さんから『ノブを宜しくね。』って顔を合わすたびに言われるんだから。」




「シカトしちゃえばいいじゃん。」




「そうはいかないわよ!家、近所なんだよ!?ノブのお母さん、小さい頃から女手一つでノブの事を育ててる凄く優しいお母さんなの。私も小さい時、よく手作りクッキーとか貰ってたもん。あのお母さんのためにも、高校ぐらいはノブにはちゃんと卒業してほしいの。」




「ふーん。大変だねー。」




携帯でLINEを打っている陽子。




「陽子!私の話聞いてるの!?」




「聞いてるよ。じゃあ、毎朝一緒に登校してくればいいじゃん。近所なら。」




「それもしようとしたけど、インターホン押しても全然ノブ出て来ないの!ノブのお母さんは早朝から仕事に出掛けてていないし。」




「ふーん。」




「陽子!!」




「分かった、分かった!とにかく、桐生くんが来たら、姫美子に教えるから。っていうか、食堂行かない?」




「あ、私お弁当あるから。」




「そっか。じゃあ、私食堂行ってくる!桐生くん来たらすぐ教えるから!」




陽子はクラスメイトの他の女の子を誘って一緒に食堂へと向かった。




「来たらすぐ教えてねー!」





「はーい!」





背中越しに適当な挨拶をした陽子は去っていく。




「もうッ!ノブの奴!」