――と、いつもの時雨ならばそう考えただろう。 時雨は今まで人にフワフワと流され、いつでも笑って波風立てず、静かになにもしないでいた。 時雨はもう一度楓を見る。 あの女子グループはまだ、楓の悪口を言っている。 楓は本を読んでいるように見えるが、その手は固く、小さく握られていた。 その手を見て、時雨は椅子から立ち上がった。 時雨にとって、『誰かのため』に動いたのは、立ち上がったのは初めてのことだった。