「大丈夫ですよ! お客様こそ、怪我してないですか?」




こんなに近くで彼の顔を見るのは、初めてで。




痛いはずなのに、笑ってくれる顔を見て、胸がしめつけられる。






「ごめんね…」



何故か泣きそうになって、うつむいた。





「ほんとに大丈夫ですから。手、汚れるから離していいですよ。」




いつも聞いていた、低い、穏やかな声。







知らない人の血液を素手で触ることは、極力控える。



仕事柄、分かってる事だけど。




その時の私は、彼の腕から手を離すことが出来なかった。