彼岸の杜




どうしてあたしは普通家に生まれなかったんだろうって考えなかったわけでもなかった。普通の家に生まれていればからかわれることもなかったんじゃないかって。


だからせめてそれ以外のところはみんなと同じ「普通」でありたいと思い始めた。多分、それからあたしは自分の意思よりも周りの意見を優先するようになったんだと思う。



「あたしね、見習いたいと思える人と出会ったんだ」


「見習いたい人?」


「うん!と言っても信じられないかもしれないけど…」


「話してみい」


「む…笑わないでよ?」



あのね、とあたしはあの蔵の中で体験したことをじーさまに全部話した。


過去にタイムスリップするなんて普通に考えたらあり得ないだろうってバカにすると思う。実際にあたしだって自分が体験したことじゃなかったら信じられなくて笑うと思うし、それが正しい反応だとも思う。


でもじーさまはあたしのことをバカにするでもなく疑うこともなく、ただ静かにちゃんと耳を傾けてくれた。



「あたしね、今までこういう風になりたいって心から思ったことないの」



でも茜に会って、周りからなんといわれてもどんなふうに思われても自分の感情をぶつけたりせずに優しい心でいる茜が純粋にすごいと思った。


本当はたくさん傷ついていたと思う。悲しんで涙を流したことだって数えきれないぐらいにあったと思う。


でも茜は本当に村に住む人々のことを大切に思ってた。あたしにも村にはほんなところがあってこういうところがいいって、素敵なんだって笑顔で話してくれた。


いつもいつも、茜はたくさんの慈しみと感謝、そして抱えきれないほどの愛情を村に向けていた。報われる可能性の方が低いってわかっていてもいつも…



「すごい人だったんだよ、茜は…真っ直ぐに凛と咲いている彼岸花みたいに綺麗で強かった。あたしも茜みたいに真っ直ぐに生きたい。人の言葉や見た目に惑わされずに自分の心に正直になって、周りの人を大切にしたいなって」