「ちょちょちょ、センパイ!」

アタシは宮木と名乗る彼女を廊下に残して、慌てて相談室へと走る。そしてまた乱雑に扉を開けて、ぜえはあと息を乱していた。
対照的に汗一つかいていない、涼しげな顔をして綾人センパイはこちらに目を向けた。


「何回も言うけど騒々しいよ、佐々木さん。どうしたの」


「さっきの人、ふふふ、副会長だって…」


「うん。――知ってるよ?宮木菫子さん」


(知ってたの!!!!!!!!!!!!)


そういえば見たことあるな~というレベルでは無く、あの人は有名人だった。
宮木菫子、美人で頭も良く性格も良いと三拍子揃った完璧人間。


サイボーグなんて噂も立つくらい、アタシなんかにとっては雲の上の存在のような人。


その人を忘れてるなんて、アタシはなんて間抜けなんだろう…


そう言えばアタシは完全に年下なくせにタメ口を叩いてしまった、そして彼女は敬語でアタシに話していた。


今は許せない相手だとしても、そこは罪悪感を感じてしまう。


「同級生の顔くらい知ってるって。それも副会長だからね」
頬杖をつきながら、アタシの受け答えをする綾人センパイ。そっか、3年生なのだから彼が知らないはずなかった。


「あの…」

申し訳なさそうに、扉からこちらを覗く董子センパイ。――また忘れてた!


アタシはさっきの失礼を詫びてから「お入りください」と董子センパイを招き入た。


それから綾人センパイとアタシが横に座り、董子センパイと向き合う形になった。


「宮木さん、嫌がらせですか?」


開口一番、綾人センパイの台詞に空気は凍り付いた。


あの優しい綾人センパイはどこへやら。ただ笑顔は崩さないままで棘のある言葉を吐くのは、何だか似合わないなと横目で見やる。


「何のことだか分かりませんが、違います」

すぐに董子センパイからの返事が返ってきた。堂々としていて、嘘なんて吐いていとアタシでも分かる。


でも、ここを『ボランティア部』だと認識していなかった時点でその可能性は消える。


多分綾人センパイも分かって聞いているのだろう、これこそ「嫌がらせ」であると思うが。