「雪、いつも濡れ手拭いをみんなに配ってくれてありがとう」
「山南さん…」
仏のような優しい笑みを浮かべる山南に、先程まで感じていた総司への苛立ちは幾分落ち着いていた。
「少し、二人で話しましょうか」
山南はそう言うと雪に背を向けて外へと歩き出した。
着いて来い、って事だよね?
慌てて山南の背中を追いかけると行きつけの甘味処に着いた。
山南はお茶とお汁粉を二つ頼んでくれた。
「ここの甘味処に来るのも最後か…。最後に雪とかられて良かったです」
「お別れの挨拶なんてする為に連れ出したんですか?」
無意識のうちにトゲトゲした言い方をしてしまった。
今日が最後の日なのに気を悪くしたかな?
そんな事を思っていると山南は気を悪くしたそぶりなんて一切見せずにニッコリ笑った。
その姿に罪悪感が広がる。
もう喋るのを辞めようかな、なんて思っていると山南が口を開いた。
「あれはもう何年前になるんでしょうかね。まだ、雪も総司も平助も子供で、毎日朝から夜まで稽古をしたり悪戯をして遊びまわって疲れて眠る日を繰り返していたあの頃」
その記憶を懐かしむように目を細めて遠くを見つめる山南。


