僕は、彼女がいた場所をじっと見ていた。
くらこ。
あの女の子はくらこだった。
石鹸の匂いがした。
あの匂いは…。
『優希。』
僕を何度も呼んだくらこの声が蘇った。
呼び慣れている僕の名前。
きっと、くらこは僕のことをいつも呼んでいたんだろう。
そう思うと、また涙が出た。
何度も呼んだ君の名前。
もう呼べない君の名前。
波が、くらこをさらった後、僕の足元になにか落ちていた。
水色のリボン。
くらこが頭につけていた。
『ミズクラゲ』のような綺麗な色。
僕はそれを拾った。
顔を上げると、夕日が僕を照らしていた。
くらこと僕の別れに同情してるかのように。

