「くらこ!!!」
くらこ、とは私の名前である。
くらこなんてなんて単純な名前だろう。
そう思っていたけど、彼に、くらこ!と呼ばれる度に嬉しくなる。
私はそれに答えるのように体をふわふわさせて踊って見るのだか、全然伝わらない。
「綺麗だね!くらこ!」
って言われるだけ。
なんなのよ。
私は少し狭い水槽の中で彼をいつもみている。
海ほど広くは無いけど、十分に与えられる餌や天敵のいない空間はとても快適だった。
「くらこ!行ってくるね!」
彼、出かけるみたい。
私は精一杯、いってらっしゃい!と言いながら踊った。
彼には聞こえていないのに。
彼の名前は、優希。
16歳らしかった。
優希は名前の通り、優しかった。
優希は優しい笑顔でいつも、くらこ!と呼んでくれる。
『ミズクラゲ』
私のクラゲの種類はこれらしい。
水槽の前に図鑑が広げてあった。

