その3ヶ月後に坂崎は名古屋の支店に転勤になり
親子のその後を知ることはなかったが…


もし、この世の中に「奇跡」というものがあるなら…

今頃あのグラウンドで、あの男の子がサッカーボール追いかけていて
カッコ良くシュート決めて、グラウンドに彼の指笛が響き渡ってる…

いまでも坂崎は、そんな想像をしていた。






「さあ、できたわよ。食べましょ」
そう妻に呼ばれて坂崎はテーブルについた。

「あの子には…香奈には、いつ話すんだ?」

坂崎が重い口を開くと、妻は

「とりあえず、手術が終わって落ち着いてから。
今はただでさえ不安だらけな香奈にとって唯一の『支え』だから」

「そうだな…」



坂崎は、残酷な現実に対するやりきれない思いをかみしめていた。