「…こんなことして彼女に怒られない?」

「そんなに心が狭い女じゃない」

「彼女ってどんな人?」

「俺よりも大人びててしっかりしてる。

夏休みはずっとボストンで短期留学」

「すごい人と付き合ってるんだね」

「…そうだな」

幸せそうでよかった。

そんなバリバリになんでもできる

彼女じゃあたしはかなわない。

「叶は彼氏いる?」

「えっ、あぁどうだろ。

今日ね告白されたの」

「よかったじゃん。OKするの」

「…たぶんね」

「好きじゃないの?」

「好きだけど…」

陽平がしばらく黙りこんだ。

まだ陽平のこと割り切れてないって

わかったのかな。

「叶、浴衣似合ってる。」

「えっ」

「中学の頃何人かで一緒に祭りに

行ったけど全然浴衣なんて

着なかったよな。」

「似合わないと思ってたし

笑われたくなかったから」

「もっと自分に自信持って

いいと思う。」

こんなこと、

一度も言われたことなかった。

「叶、幸せになれよ」

優しい声。

…一歩踏み出さなきゃ。

「ありがとう、陽平」



気づけばもう家だった。

「じゃあ足首ちゃんと冷やすこと。

傷はちゃんと消毒しとけよ。」

「ありがとう。本当に」

「浴衣は似合ってるって

言ってやったけど

次着るときは下駄をちゃんと

はけるようになってから

着ることだな。じゃあな」

陽平と関わるのはもうこれで

本当に最後かもしれない。

こけたあたしをみつけて

手を貸してくれるのも

あんなにたくさんの人の中

かきわけて走ってあたしを

見つけ出してくれるのも

これから先もきっと陽平だけ。

最後に優しくしてくれて

ありがとう。