夕方、仕事が休みだった

お母さんに頼んで

浴衣を着せてもらった。

「げ、叶愛浴衣じゃん」

「なに、航太。似合ってるとか

言ってくれないの」

「誰がお前に言うかよ」

冷たい言い方。

本当に似合ってないのか

少し不安になった。

「大丈夫よ、叶愛。

ちゃんと似合ってるから。

さ、いってらっしゃい」

お母さんの優しい言い方に

ほっとして家を出た。


下駄は歩きにくくて、

鼻緒も少しぼろくなっていた。

神社に行くまでの道が

もうすでに人でいっぱいになっていた。

このままじゃ少し時間に

遅れてしまいそうだった。

少し急ぎ気味で

人をかき分けて歩いていた時だった。

カツン

「痛っ…」

足元の小石に気づかなくて

つまづいた拍子に

少し足首をひねったうえに

ぼろくなっていた鼻緒が切れて

思いっきりこけた。

「…痛っ。最悪」

「大丈夫?」

伸ばされた手を掴んだ。

「ありがと、みつひ…」

伸ばされた腕が光弘くんだと

思って掴んだその手は

光弘くんじゃなくて

…陽平だった。

「どうしてこんなところに」

「姉貴がりんご飴と綿菓子

買ってこいって言うから来た」

彼女と来たわけじゃないんだ。

「大丈夫?鼻緒切れてるし

血がでてる」

「本当だ。」

「足首もしかしてひねった?

歩ける?」

「軽くひねったみたい。」

「今日は帰った方がいいんじゃね?」

「でも、せっかく浴衣着たし

今からみんなとお祭りなの」

もう少しで神社だっていうのに

こんなところで帰りたくない。