明日、陽平と最後のデートに行った
水族館にいこう。
それであたしはきっちり
陽平を思い出に変えてしまおう。
もうこれで最後。
陽平のことは忘れよう。
―テスト最終日
「おつかれ、叶愛」
「おつかれ、知夏」
「修二くんたちがご飯行かないかって
誘ってくれてるんだけど」
「あー、ごめんあたしちょっと
用事あるから」
「そっかぁ。残念。
水族館に行くの?」
「うん。ごめんね、また連絡する」
あたしは1人いつもと反対方向の
電車に乗って水族館へ向かった。
ひとりで水族館は
もう慣れてきた。
陽平と別れてからもう3度目。
周りのカップルを見ていると
あの頃のあたしと陽平も
こんな感じだったのかなと
毎回思ってしまうけど
なんだか今日はつらい気持ちでは
なかった。
「お前もひとりだね」
青いクラゲ。
あたしはクラゲが大好きだった。
“叶、イルカとかじゃなくて
クラゲがいいのかよ。
ハハハ、変わってるな”
懐かしいことを思い出した。
「かわいいよね、クラゲ」
「…えっ?」
隣にいたのは橘くんだった。
「どうしてここに?」
「小島さんが飯断ったから
修二と中野さんで2人で行って
おいでって言った。
で、中野さんに聞いたら
1人で水族館だって言ってたから」
知夏に聞いてきてくれたんだ。
「1人で水族館なんてひいた?」
「いや。思い出の場所だろ?」
「そうだよ。もう今日で
自分の気持ちにけじめをつけるの」
橘くんに微笑むと
橘くんは優しい顔でうなずいてくれた。
「クラゲが好きなの?」
「そう。なんだかかわいいでしょ?」
「ハハハ。イルカとかじゃなくて?」
…陽平と同じこと言ってる。
そうだよ。イルカとかじゃなくて
あたしはクラゲなの。
「おかしい?」
「いや、俺も好きだよ。クラゲ」
橘くんの笑った顔を見ていたら
自然とあたしも笑っていた。
「笑ってくれるんだね」
「え?」
「俺といるときごめんと
ありがとうばっかで
全然笑ってくれなかったから」
「そーだっけ?」
「友達って認めてくれたってこと?」
「もともと友達でしょ。
クラスメートだったんだし」
「まぁそうか」
その後も一緒に周ってくれて
おかげでなんだかとっても
すっきりした。
「あー、楽しかった」
「橘くんすごい楽しんでたね」
「小島さんは楽しくなかった?」
「とっても楽しかったよ」
「よかった。ちょっとそこで
待ってて。飲み物なんか
買ってくる。何がいい?」
「あー、そんなのいいよ」
「遠慮すんのなし。友達だろ?」
橘くんの笑顔を
今日は何回見たんだろう。
その笑顔なら気を許せる気がした。
「じゃあミルクティー」
「はいよー」
後ろ姿はやっぱり陽平に
見えるけど、この前みたいに
胸が痛んだりはしなくなっていた。
