「…小島さん」
「…ごめん、あたし何泣いてんだろ」
「今日はもう帰った方がいい。
送っていく。鞄取ってくるから
そこにいて」
橘くんが軽く微笑んで
図書館に戻っていった。
…大好きだった。
陽平のことが誰よりも。
本当に忘れられるんだろうか。
「お待たせ。修二と中野さんには
帰るって言っておいたから」
鞄を渡された。
「ごめん、ありがと」
「もうそうやって何度もごめん
っていうのやめない?
俺、小島さんと友達になりたい。」
「…友達」
「俺、中学の時好きだった女に
遊ばれてたんだ。そんなの全然
知らなくてさ。本気で惚れてて
付き合えたのが嬉しくて
ひとりはしゃいでた。でもさ
本当は違う学校に付き合ってた人がいて
俺は学校での相手にすぎなかった。」
そんな悲しい過去をどうして
あたしなんかに話してくれるのか
とても不思議だった。
「だから、なんとなくわかる。
小島さんのつらい気持ち。
俺も本気で好きだったやつが
いたからさ。俺も同じ学校に
いるしさ、たまにすれ違ったりも
するけど、もう今はなんとも
思わない。初めは全然だめだったけど。
だからきっと小島さんも
時間が解決してくれると思うから。」
いつも学校でクールな
橘くん。人の恋愛とか
自分の恋愛とか特に興味ない
みたいな人なのに
こんなさみしそうな目で
優しく話してくれるとは
思わなかった。
