「じゃあ俺、塾だから」
途中まで話しながら歩いたけど
ほとんど何も耳に入ってこなかった。
「じゃあ」
陽平に彼女がいるってだけなのに
抜け殻のような気分で
ひとり図書館へ向かった。
「叶愛、こっちこっち」
「知夏、ごめん」
「…なんかあった?」
「いや、なにも」
ため息ばっかり出て、
笑いたいのに顔が引きつって
うまく笑えない。
「小島さん、ここ教えてくれる?」
「…」
「叶愛」
「…え?」
無になってただただ数学を
解き続けていたから
何も聞こえなかった。
「光弘くんが」
「あ、ごめん」
「ちょっと息抜きに外でない?」
橘くんがあたしの腕をつかんだ。
そのまま外に出てベンチに座った。
「はい、ミルクティーでいい?」
「あ、ごめん。ありがと」
「…聞いてもいい?さっきの人のこと」
「…うん」
「彼氏…って感じじゃなかったよな?」
「…元カレ。」
「まだ好きな感じ…だよな」
「そう。でもね、もう陽平には彼女が
できたんだって。だからあたしも
もういつまでもこのままじゃ
だめなんだ。」
なんでこんな話を橘くんに
しているんだろうとか思いながら
ミルクティーを飲んだ。
冷たい缶に入った冷たいミルクティーは
なんだかとっても身に染みて
涙が出てきた。
