とりあえずどっかで甘いもん食おう。

そう泉水が提案して、私たちはドーナツショップに入った。

たくさん並んだドーナツを私は真剣に眺め、迷いに迷ってふたつ選んだ。
それと、カフェラテ。
泉水のトレイにもふたつのドーナツ、それにブレンドコーヒー。

「いただきまーす。」

泉水と私は手を合わせて食べ始める。

「恵玲奈、しあわせそー。」

そう言う泉水だって、ものすごくしあわせそうだ。

「そういや、旦那さんにちゃんと言ってきた?」

泉水がドーナツを頬張りながら聞いてきた。

「当たり前じゃない。今度、紹介するね。」

「…誰に誰を?」

「泉水に旦那さんを。もしくは旦那さんに泉水を、でもいいけど。」

そう言いながら、ふたつめのドーナツに手を伸ばす。


「恵玲奈、おいしい?」

「うん、すっごく。」

「よかったね。」

泉水はそう言って笑った。

「そう言えば、大学は何学部?」

指先についたチョコを紙ナフキンで拭きながらたずねた。

食べ終えた泉水は、お砂糖もミルクも入っていないブレンドコーヒーをゆっくり飲んでいる。

「ん?あぁ、工学部。」

「工学部。ってなに勉強してるの?」

「なにって難しいなぁ。いろいろだよ。いろいろ。」

「じゃあ、質問変える。泉水は卒業したら何になりたいの?」

「ものづくり。」

「ものづくり?」

「そ。恵玲奈、大阪の八尾ってとこ知ってる?」

「やお?知らない。」

「八尾とか東大阪ってとこに、小さな町工場みたいなのがたくさんあるんだけど、そこの技術者たちがすごいの。もう職人技。すげーかっこいいの。でっかい企業の技術もすごいんだけど、俺はそういう町工場でものづくりの職人になりたい。」

泉水は少し照れ臭そうに、でもはっきりとそう言った。