「日比谷さん、俺とー、付き合って?」


両手を重ねてお願いってポーズをしながらこちらを困った笑みで見つめる軽そうな男子が1人。

私の視界の端っこにはいる物陰に隠れながらこちらを見ている男子が数人。

そしてぽつんと立ち尽くす女子、私が1人。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


これはあれだな。俗に言う罰ゲームとかだろ。あっ俺負けちゃったーじゃあ罰ゲームは暗めの女子に告白することー!とかだろ。

なんと面倒な。私それに選ばれちゃったわけですか。見た目暗いですか。つかこの男子誰。いやまず返事しなきゃだな。えっと・・・


「・・・・・誰かにプレゼントですか?」


「は?」


「私、あんまり女の子の好きなものとか分からないので連れていっても意味ないと思いますよ」


「え?付き合うをそっちに解釈しちゃった?」


いえ心の中ではしっかりそっち系で解釈してます。ただボケたくなっただけです。


「俺は日比谷さんと恋的なもので付き合いたいってい」


「ありがとうございますごめんなさい」


「食い気味即答!?」


「私、あなたの事知らないので付き合う理由もないんですよね。男は立ててやれってよく言いますけどあなたと私そこまで親しいわけでもないので・・・」


他に何を言おうか言葉を切った時、タイミングを見計らったように携帯のバイブ音が鳴った。ナイス。


「はい、もしもし」


『あ、美智?俺だけど』


男子に話し掛けられる前に即座に携帯をポケットから取り出し出たら相手はお兄ちゃんでした。きっと内容はどうでもいいことなんだろうなぁとか思う。


「うん、うん、う・・・え、知らない。ん?んー・・・分かった・・・それじゃあ待ってて。うん、はいはい」


やっぱり今のこの場面より数倍どうでもいいことだった。さて、私の電話が終わるまでじっとこちらを見て何も言わず忠犬ハチ公のように意外と整った顔でこちらを待っていた男子。君偉いな。私だったらさっといなくなるのに。あ、物陰の人達もまだいた。暇なのかな?


「えっと、お待たせして申し訳ありません。告白紛いな発言有難うございました。内心面白かったです。しかし、今から行かなきゃいけないところが出来ましたので待ってもらって申し訳ないのですが帰ります。本っ当にすみません」


口を挟もうと開きかけた男子に隙を与えることなく用件だけ噛まずペラペラと言ってぺこりと軽くお辞儀をすると


「あ」


脱兎の如くその場から逃げるように走った。ちなみに告白現場は1階の隅っこ辺りの廊下でした。

いや、本当にごめん男子。すっごい失礼だなー私何様だよとか思ったけど今はそんなこと気にする余裕がないの。

お兄ちゃんに呼ばれてしまっては仕方ないって言うかこれ以上物を壊さないでと思ってしまうのは仕方ないのよ。日比谷 美智の兄、巴月はなんと言うか・・・極度のドジっ子体質で何も突っかかりのないフローリングを歩こうが転ぶし、服を反対に着たりするし、自分の靴を庭に置きっぱにしてどこに置いたか忘れて探そうと裸足で庭に降り立とうとしたら自分の靴に引っ掛かって地面に顔面着地するわでなんと言うか目を離せない。

しかも本人はおっとりとした気性のせいか転んでもまたやっちゃったーとヘラヘラ笑いながら私に傷の手当てを頼みに来る。なんとも手の掛かる兄だ。しかもそのおっとりした兄は案外顔が整っているため自分の学校ではマスコットキャラとして素晴らしい人気を誇っているのだとかなんとか。

いつだったか弁当を忘れて学校に行かれたため、届けに行ったらめっちゃ人いっぱいいた。妹辛い。お兄ちゃんとあんまり雰囲気似てないねーとか妹ちゃんもドジっ子属性持ってたりする?とか言われた。

ついでにお兄ちゃんと仲の良い人数名とメアド交換するはめになった。案外使う。『ドジっ子お兄ちゃん今日は○○忘れたらしいんだけど鞄の中にある?』とか聞かれて答えてる。お兄ちゃん良い友達持ったね!

まぁそんなわけでトラブルメーカーが今度も探し物で電話してきたのでやばいやばいと思って自転車全力でこいで我が家に着きました。

いやー本当にあの名前わからない男子にはすまないことした。でも罰ゲームの目標達成はした筈だから問題ないでしょ。

ガチャッと一軒家の扉を鍵で開けてそーと入ってみると玄関から見えてる部分は朝と同じ光景だった。ほっと息を吐いてただいまーっと言おうとしたらガターンっと大きな物音がした。嫌な予感が当たった瞬間だった。

だだっと靴を脱いで廊下を駆け、物音のしたリビングに入ると


「あ、美智。おかえりー。またやっちゃったー」


視界に映ったものは棚から落っこちたのであろう無数の箱の入れ物、そしてぺたりと座ってこちらへへにゃりと笑いながら鼻血を出している兄の姿だった。


「ばかあああああ!ティッシュ!ティーッシュ!」


帰宅後、兄にポケットティッシュを渡し、兄の努力の跡と言う名の落ちている箱の残骸を元の場所に戻して兄に説教をした。怒られてる当人は終始にこにこと笑みを携えていた。反省の色なし。