「か、返してください……っ。」
「柚葉がこっちに来たらな。」
「うっ………。」
確かに、『返して』といいながら
先輩から遠ざかっている私は矛盾している。
「…………っ。」
警戒しながらそっと近づく。
「せ、先輩早く返してください。」
先輩の一歩手前。
そんな所で立ち止まると
先輩にそう言った。
「柚葉なんか、警戒してる?」
「そ、そんなことないですっ…」
私は首を振りながら
先輩の手にあった生徒手帳を
バッと取った。
「…本当?」
「え、あっ、はい………っ」
突然私の表情を確かめる様に
先輩の顔がグッと近づく。
「あ、あの……っ、これあげるんで許してくださいっ!!」
その場から逃る為、とっさに
先輩に押し付けたのは4枚あるうちのカラオケ半額券の1枚。
「え、おいっ…!」
「…それじゃあ、友達が待ってるんで!」
無理やりカラオケ半額券を
先輩の手に握らせると
逃げるように走り去る。
先輩は追いかけてこなかった。

