―約20分後―

 有希に連れていかれた場所は、何の変哲もない小さなカレー屋さんだった。
看板には≪カレー・蒔田≫と描いてある。

「ここ、わたしん家なの!さ、上がって今日は私の奢りだから!!ね」
「え?ちょ、有希!?」
「…ああ、そういうこと……」
「うん!」
「どうゆうことよ~!!?」

 そして店の中に入った。
 夕食時といっても、さすがにクリスマス・イブにカレー屋に寄るお客などいないのか店内は無人だった。
「さ、好きな場所座って待ってて」

 有希はそういって厨房に入った。

「お母さん!ちょっと厨房借りるね!」
「はいよー!」

 そんなやり取りを親子でしたあと、有希は私と麻里に水とスプーンが入った箱を持ってきた。そして厨房に戻った後、何か作っている。

 ―5分後―

「じゃじゃ~ん!有希の友情スペシャルカレーで~す!!」

 カレーが真っ赤だった。

「えっと…有希、これ…カレー?」
「うん!」
「さ、食べて!麻里の分もあるよ!ほら」
「え…?私は、別に…」

 麻里は完全な被害者だった。

「大丈夫だって、何故ならわたしも食べるから!」

 きっちり3人分だった。
 私達は、もう逃げられないことを悟ってスプーンを手に持って「いただきます!」と合わせていって食べた。

 一口でもうアウトな辛さだった。
 涙が込み上げてきた。
 それでも何故かスプーンを持った手はカレーをすくっていた。
 また食べる。
 また食べる。
 また……。
 どうしようもなく辛く口の中がもう限界でヒリヒリしていて私の頭の中は沸騰中だ。
 
 だけど、何でだろう…。
 麻里も有希も泣きながらカレーを一緒に食べている。

 思えば二人とはクラスが違う。
 1年の時、私がまだ一人浮いていた時、たまたまいった屋上で二人は何故か弁当を一人で食べていた。
 
「どうして一人なの?一緒に食べないの?」

 と聞くと有希が先に答えた。

「だって違うクラスだし、名前も知らないし」

 といった。
 一方、麻里は

「一人の方が気楽でしょ?誰かと一緒に食べなきゃいけない規則でもあるの?」

 といった。
 少し気まずくなったので私も座って食べようとした時、少し強い風が吹き、有希が持っていた弁当の中身のメインの具が飛んで地面に落ちた。

「あ……ああああぁぁぁぁ!!!」
 この世の終わりというような悲鳴を有希が上げた。私と麻里はさすがにその反応は予想外でビックリした。

 有希は私や麻里の弁当を見ながら泣いている。そして

 ぐ~……

 ついにお腹の音まで鳴らした。

 その時、麻里は自分の弁当のウインナーを一本だけ有希の弁当に入れた。

「これ、あげる…」

口数少ないとはいえ、それだけで充分だった。私も勇気を出した。

「ね、ねえ、その…好きな具、取っていいわよ!」

 と、ちょっと上から目線でいってみた。
 そうすると有希はメインのハンバーグをフォークでグサッと刺して丸ごと取って自分の弁当に入れた。

「あ……」

 私は顔面蒼白になった。
 この時、初めて私にとっての友人ができたのかもしれない。それから毎日私達は屋上に集まって昼ご飯を一緒に食べた。

     *
 そして今もまた食べている。
 しかも私が失恋した日に…。
 一緒に激辛カレーを食べて泣いてくれている。そんなことを思うと余計に涙が出てきた。

 私は一体、この二人の何を見て来たのだろう…。

 好きだった幼馴染に振られたくらいで…
 親友に裏切られたくらいで……
 何を…

 私には、こんなにも私の事をしっかり見てくれている人達がいるというのに……。

 私って…

 私ってやっぱり…バカだ。