偽りは、此れを恋と呼ぶ。



自転車に乗ると、さらに風が強く感じた。鼻が冷え、定期的に鼻を啜る必要を感じた。それが、冷えからなのか、別のことからなのかは、柚仁は本当はわかっていたけれど。

「ただいま」
「おかえり〜」

家に着くとすぐに部屋へ向かった。
普段と声が違うのをお母さんに気づかれなければいいが。この時だけは自分のことしか考えない他人を気にしない母親の性格に、柚仁は感謝した。

「柚仁?」

2階にある自分の部屋へ向かう途中、階段で姉の沙羅に心配、とも違う珍しいものを見るような目で伺われたが、それも無視した。

扉を閉め、背負っていたリュックだけを勢いよく下ろして、コートもマフラーも身につけたまま、ベットに飛び込むように倒れた。

涙は勝手に流れた。やりきれない感情に声を上げそうになる。

自分は何にこんなに憤っているのだろう。柚仁は何度も迷ったが、透に対するよくわからない思いは消えなかった。

布団に顔を押し付け、声を殺す。

コートのポケットに入っていたスマホが振動したような気がした。

「もしかして怒ってる?笑」

トークアプリの通知として表れた透からのメッセージ。

ふーん。いくら鈍感で無神経でもさすがに気づくんだ。

でも、彼はなにもわかっていない。
彼は「怒ってないよ」
そんな返答を期待してるだけだ。じゃなきゃ「笑」なんて打たない。否定されて安心したいだけだ。

柚仁は不思議なほど確信できた。

わざと既読をつけ、スマホを壁に投げつけた。

本当に何もわかっていない。