それなのに、なぜだろう。
柚仁はまた笑っていた。
「そんなに映画見たかった?」
「ううん。いいや。」
柚仁がそう答えると、透は満足したように、わりいな、と言った。
約束してたじゃない。またそうやって破るんだ。約束の意味わかってるの?
映画が見たかった訳じゃない。透と行きたかったんだよ。楽しみにしてたんだよ。
どうして?
言いたいことはたくさんあった。しかし、柚仁は全て押さえ込んだ。
全てを押し込めて、いいよ、の一言をやっとの思いで発した。
「それより俺、あの映画見たいんだよなぁ。ほら、あの女優出てるやつ…」
風は冷たく、頬が染みるように痛い。
透は何か喋っていたが、全く耳に入らなかった。
ただ、本音が出ないように。喉まで迫った想いを吐き出さないように。涙を流さないように。
時々、透が笑ったタイミングに合わせて愛想笑いをして。
どうして言わないの?どうして伝えられないの?どうしてこういう時ばっかり、ごまかすのが上手いの?
校門に辿り着いて
「じゃあな。」
と透が手を振る。
柚仁は無言で手を振りかえすと、いそいで透に背を向けた。
唇を噛み締めて、風の冷たさに耐えた。


