偽りは、此れを恋と呼ぶ。



これで何度目だろう。

きっと透は自覚していないだろうが、柚仁の中で透が約束を破ったのは4回目であった。

数分前、部活をしている時の柚仁は違った。

柚仁は演劇部に所属していて、次の公演では役者を務めることになっている。公演まであと1ヶ月を切り練習に力を入れなくてはならないのに、終始口元が緩んでしまうくらい柚仁は上機嫌であった。

練習を終え、透と帰るのが待ち遠しかった。とはいえ、帰る方向が異なり、透は電車の時間があるから、一緒にいれるのは駐輪場から校門までである。それなのに寒い中、駐輪場で待っていてくれる透。明後日映画を見る前の、昼食について話し合おうと思っていた。

近くのコンビニでお弁当を買って、教室で食べるのかな。最近駅の近くにできたお洒落なパスタ屋さんに行くのもいいな。透はまた「ラーメンが食べたい」とか言うかもしれないな。

それから、柚仁と透が見る予定だった映画は若者に人気の恋愛物の洋画で「泣ける」と話題だったから

もし自分が泣いたら、透はなぐさめてくれるだろうか。透の泣き顔が見れたりして!

そんなことを考えて。
透の隣で笑う自分を想像していた。

きっと透は私が泣いたら

「なにお前泣いてんの?馬鹿だなぁ」

と、けらけら笑って私の頭を撫でるだろう。

だからもし透が泣いていたら、私も、馬鹿、と笑って頭を撫でてやる。

柚仁は、まるで既に見た情景であるかのようにそんなことを想像していた。