偽りは、此れを恋と呼ぶ。



「俺も手伝うよ。」

他のクラスメイトは去り、外から運動部の掛け声が聞こえる静かな教室での放課後。
これが透が初めて柚仁に投げかけた言葉だった。

「森野さんは?」
「…唯香は部活忙しいって。」
「そっか。」

透は柚仁の方に手を差し出した。柚仁は、いいよ大丈夫、と言ったのに、透は勝手に柚仁の手から書類の束を取った。

日差しが強くなり、汗ばむ日が増えてきたこの頃。入学してから二月ほど経ったある日、唯香が言った。

「今日委員会あるって〜」
「え?」

なんだか久しぶりすぎる言葉に少し驚いた。

「私達、何委員だっけ?」

「もうー、学校行事委員でしょ!」

呆れながらも笑う唯香に、そういえば、と思った。
学校行事委員、行事がない時は暇そうだから、という理由で唯香と選んだ委員会。実際、自分が何委員か忘れるほど、本当に暇である。
そろそろ体育祭ということで、やっと出番なわけだ。


「他の2人は?」

柚仁は勝手に作業を進める透を呆然と見ながらも、思い出したように聞いた。

「2人も部活だよ。」
「染谷くんは?」
「俺は帰宅部。」

透が帰宅部だったことを、意外、と驚く柚仁に、透は、透でいいよ、と言った。

学校行事委員に、クラスからは柚仁と唯香、透と、透のグループ内の男子2人が参加している。
柚仁はこの日の昼休みに行われた会議で、初めて透と同じ委員会であったことを知った。それは唯香も同じだったようで、

「げっ、一緒なの!」

会議室に入ってきた透達を見て、そう声を潜めて言っていた。

「嫌なの?」
「なんかあのグループ、好きじゃないんだよねえ」

唯香と2人して透の方を横目で見る。

「染谷くん、かっこいいとか思わないの?」
「んー、顔だけね。」

少し離れたところで、一緒にいる男子と共に透が声を上げて笑っていた。柚仁はぼんやりそれを見つめていた。
えっ柚仁思うの?、と唯香が急に聞き返してきたので、柚仁は慌てて首を振った。唯香がなんとも言えない苦笑をしていたのを覚えている。